改正児童虐待法の来春の施行に伴う指針案を厚生労働省がまとめた。
日本経済新聞(ネット版)12月3日号には次のように記載されている。
「引用開始」
親の子供への体罰を禁止する改正児童虐待防止法が来春に施行されることを受け、厚生労働省は「どんなに軽い体罰も禁止」とする指針案をまとめた。体罰を「身体に苦痛、不快感を与える罰」と定義し、長時間の正座などを例示した。暴言なども子供の心を傷つける行為と位置づけ、体罰に代わるしつけの普及の必要性も強調。親以外も対象とするなど改正法より幅広く体罰を防止する。
指針案は同省が3日に開いた「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」で示し、了承された。法律で禁止される範囲だけでなく、虐待や人権侵害などにつながる行為も幅広く盛り込んだ。12月中に意見公募(パブリックコメント)を実施、年度内に指針としてとりまとめる。
指針案では、しつけ目的だったとしても「身体に苦痛や不快感を引き起こす行為」を体罰とし、「どんなに軽いものでも法律で禁止される」と規定した。
「引用終了」
体罰禁止指針案のポイントとして
「引用開始」
●体に苦痛、不快感を与える行為は体罰
(具体例)
・注意しても聞かないので頬をたたく
・いたずらしたので長時間正座させる
・友達を殴ったので同じように殴る
・他人の物を盗んだので罰で尻をたたく
・宿題をしないので夕ごはんを与えない
●暴言などは虐待や人権侵害に当たる
(具体例)
・冗談で「生まれてこなければよかった」と存在を否定
・きょうだいを引き合いにダメ出しや無視する
「引用終了」
この指針のポイントを読んで、私は子供に体罰としてやってはいけない当たり前の内容が書いてあると思いました。
ネットに投稿されていたもう少し詳しい内容の厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」による体罰によらない子育てのために(素案) を読んでみましたが、体罰禁止をうたったおおむね妥当な内容と思いました。
「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」の素案
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000573078.pdf
●体罰禁止指針案に対するネット上での意外な反応
世の中の議論の対象になるのは、体罰を禁止した内容についてではなく、法律は成立しても罰則規定が無いこと、および民法における懲戒権の規定との関係でこの法律がどこまで実効性があるかと言う点。
なのだろーと考えていました。
ところがこのガイドラインに対して
ネット上では、
「体罰をしないでどうやってしつけをするのか」「この具体例は体罰ではないだろー」「基準を国が勝手に決めるな」といった批判的な意見が多数出てきていました。
子育てで体罰をしてはいけないということがごく当たり前の事だと思っていた私にとっては世の中の反応は意外でした。
もちろんネット上の意見が世の中の意見を代表しているわけではないのですが
今年は子供に対する暴力、虐待による死亡事件が大きく取り上げられていました。
この時の新聞や、ネットでの反応を見ていると
「体罰禁止のガイドライン」にこんなに批判的な意見が出てくるのは意外な感じがしたのです。
そこで、日本での「子どもへの体罰についての意識調査」があるか調べてみました。こういった調査自体があまり行われていないらしいのですが、まとまったものとしては公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンの2017年7月実施の調査がありました。調査は2万人の大人に対する意識調査と1030人の子育て中の親や養育者に対する実態調査です。
セーブ・ザ・チルドレンによる調査
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=2658
https://www.savechildren.or.jp/jpnem/jpn/pdf/php_report201802.pdf
2万人の大人に対する意識調査では
「しつけのために体罰をすること」を容認しているのは56.8%
「決して体罰をすべきではない」としているのは43.3%で
およそ6割の大人が体罰を容認しています。
そして現在子育て中の人の70.1%がしつけの一環として子どもをたたいたことがあると答えています。
ということは、
現在の日本ではしつけのための体罰を容認する大人および子育て中に実際体罰をしている人が過半数ということになります。
積極的に体罰をすべきという人は少数であるが、必要に応じてとか、他に方法が無い時に手の甲をたたく、お尻をたたく、怒鳴るといったことは必要と考えている人が多いようです。
日本では、虐待を容認する意識を持つ人は少数と思われますので「虐待はダメだが、しつけのためなら体罰は仕方がない」と考えている人が多いということのようです。
できれば体罰はしたくないが、仕方なくという消極的な容認派といったところでしょうか。
このような現状を考えると、
厚生労働省の体罰ガイドラインは、体罰を容認する過半数の大人の現在の考え方や行為を否定しているわけですから、反発がでるのはあたり前と言えば当たり前です。現在持っている考えや行為を否定されたら反発がでるのは自然の反応です。
●やはり子供への体罰は不要であると私は考える
私自身は子供が生まれたときから、手やお尻を叩いたりする体罰や怒鳴って言う事を聞かせるという必要性を感じていませんでした。そのため体罰をしたこともありません。
また、子供の成長の過程で体罰の必要性を感じたこともありませんでした。
そのため子供に対してどうしても体罰が必要な局面というのが正直想像がつかないのです。
確かに、その場面だけ子供に言う事を聞かせるのであれば、体罰を使うのは手っ取り早いのしょうが、それは手段として思いつかなかったのです。
ですから私自身の考えは
「子育てに体罰は不要」ということになります。
なぜかという子供にも大人と同様に人権があり。子供の人権を親や大人が守るのは当たり前のことだからです。
大人が大人に対して体罰をしたら、傷害罪になるでしょう。それが子供に対して許されるわけではないのです。大人が大人に言う事を聞かせるのに体罰を使わないのといっしょのことです。
体罰の指針で指されている事例。
「注意しても聞かないので頬をたたく」「宿題(大人なら仕事とか)をしないので夕ご飯を与えない」
これを大人が職場でやったらどうなるでしょう。許されないでしょう。それがなぜ子供には許されるのでしょうか。大人同士でしてはならないことはやっばり子供に対してもしてはいけないのです。
体罰をしないでどうやって子育てをするのか、しつけはどうやってするのかという意見については
ともかく「体罰をするという選択肢はありません」という前提の中で最適な方法を選ぶ。
としか言いようがないのではないでしょうか。これは大人対大人でも同じことだと思います。
●体罰に対する世界と日本の考え方の変化
現在の日本の大人たちは多くの人が大なり小なり家庭や学校で体罰を受けながら育っているのではないでしょうか。世代をさかのぼれば上るほどそうでしょう。何十年か前のテレビやアニメにも普通に体罰のシーンは出てきます。
巨人の星(知ってますか?)はもちろんのこと、ドラえもんでは、あの「しずかちゃん」まで母親になった時、息子の「のびすけ」に手をやいてお尻を叩いていました。
何の問題視もされずにテレビやアニメで放映されるぐらい日本においても、最近まで子供への体罰はありふれていたのです。
子供への体罰の問題は日本だけではありません。先進的と思われる欧米諸国でも近年まで体罰を容認する風潮が強かったようです。現在の世界の潮流はどうでしょうか。
セーブ・ザ・チルドレンによれば、世界では2018年2月現在53か国が家庭を含むあらゆる場面での子供に対する体罰を法律で禁止しています。
1979年世界で初めて子供への体罰を法律で禁止したスウェーデンでは1960年代体罰に対する肯定的な意見の人が6割程度。体罰を用いる人は9割程度にのぼっていたものが2000年代にはそれぞれ約1割まで低下。
同様に体罰を法律で禁止した、ドイツ、ニュージーランド、フィンランドでもおなじような結果がみられるとのことです。
法律で禁止した国での成果が報告されている。一方、啓蒙活動だけ実施している国では効果が限定的とのことです。
このように現時点で大きな効果があったとしている国はこのくらい。また世界の大半の国が採用しているとも言えないわけです。
しかし、法律で体罰禁止を明記している先進的な国での効果が確認されているわけで子供への体罰禁止は世界の潮流となりつつあるとはいえるでしょう。
世界の事例を踏まえても日本においても法律で子供への体罰禁止を明記していくことは妥当。
今後民法を含めた他の法律の改正や罰則規定を含め実効力を高める施策を検討する必要があるでしょう。
●社会や子育ての意識は変化していく。
大切なのは今までの事よりこれからどんな社会にしたいかということ
当たり前のことですが、社会や人の意識は時代とともに変化していきます。
これまでは問題にならなかったことや大目に見られていたことも社会や人々の意識の変化によって現在は厳しく見られたりやめようという意識が強くなったりということがあります。
たとえば、酒気帯び運転、オフィスなど公共性の高い場所での喫煙、セクハラ。これらは日本の社会でも10年~20年前にくらべると社会の中でより厳しく見られたり、やめようということになってきているでしょう。
30年ぐらい前にはオフィスの机の上に灰皿が置いてあって仕事をしながらタバコを吸っていた人も多かったのです。私的なスペース私的オフィスや来客用のスペースは別ですが現在みんなが働いているオフィススペースでタバコを吸わないでしょう。
その当時子供が乗るような普通電車の中にも灰皿が備え付けてある車両もあって、電車の中で吸っている人もいました。今では考えられないでしょ。
30年前はみんなが働いているオフィスでタバコを吸いながら仕事をしていた人でも現在そうするかと聞かれたら、「しない」と思うでしょう。まわりの人がそうしていたら不快に感じたり、やめるように言うでしょう。
そのように10年~20年ぐらいでけっこう社会や人々の意識は変わるものです。
次に、日本での体罰についての意識調査で体罰容認している人が過半数という結果からそのような調査結果がでる理由を私なりに推測してみます。
体罰を容認する意識がどこからくるかの推測です。
・自分も体罰をされたが大人になってもちゃんと生活しているぞとか。
・自分が子育てをしたときに体罰をしたから。
・自分が子育てしていた時代は体罰を誰もがしていた。
・できればしたくはなかったが体罰以外に方法が無かったからそうした。
というように、
自分がしたことやされたことを否定したくない肯定したい気持ちからではないでしょうか。
そのため社会でのちょっとした体罰であれば容認する、大目に見るという方が多いのではないでしょうか。
でも自分が体罰をした、体罰を現在もしている。または体罰されたからからという理由で、体罰を容認する現在の考えを継続しなくても良いのではないでしょうか。
30年前にオフィスでタバコをスパスパ吸っていた人が、その後禁煙してオフィスでの喫煙を容認しないという考えになっても何の不思議もないでしょう。
それといっしょで、
過去や(現在)自分が子育てをしていたときに体罰をしていたとしても、体罰は容認しない方がよいという考えに変わってもなんの不思議もないし問題ないと思います。
過去の自分がどう考えていたかは、棚にあげて積極的に意見を変えていけばよいのではないでしょうか。未来の社会を考えると、体罰不要と考える人が増えれば増えるほどその方向に向かっていくわけですから。子育ての常識や社会の意識も時代とともに変わっていくのですから意見を変えるのにためらう必要はないと思います。
日本においても、子供に体罰をしない社会がよいか。体罰をする社会がよいかと聞かれれば、多くの方が「体罰をしない社会の方がよい」と答えるのではないかと思います。
「体罰をしない社会の方がよい」と考えるのであれば、自分ができたできなかったとか。できそう、できなそうということはとりあえず置いておいて「体罰が無い社会」を目指していったほうがよいのではないかと思います。
なお、セイブザチルドレンがまとめた「子どもに対するあらゆる体罰を禁止するために」よくある質問集に子育て中の親や養育者が感じる疑問について質問と回答がまとめられていますので、
ご一読をおすすめします。
(質問集)
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=2904
セーブ・ザ・チルドレン
子供に対するあらゆる体罰を禁止するために「よくある質問集」
https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/php_faq_2019_general.pdf
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